醪 |
清酒の醪の仕込みは、1日日に初添,2日日は踊り,3日日に仲添、4日日に留添という段階を経て仕込みます。あるいは省略して、添、踊り,仲,留ともいいますが、酒造りを初めて勉強する人の場合は、言葉が耳新しいために理解できないばかりでなく、どういう理由でこのように手の込んだ手順で仕込みをするのかという点について疑問をもつのが普通です。 踊りとは、階段の踊り場と同じように休むという意味です。したがって,醪は4日間にわたって三段階の仕込みをすることになります。これを段掛法または段仕込みといいますが、酒母を一度に大量の物料(醪の原料である水と麹と蒸米)の中に入れると、酵母の数と酸が極端にうすめられて、細菌の増殖に都合の良い条件をつくることになります。これを防ぐために、段階をふんで拡大してゆくことが段仕込みの目的です。以下、醪の仕込みと管理について、あらすじを述べます。 (1)初添(添仕込み) 仕込みの1〜3時間前に,タンクに洒母と水と麹を入れて水麹をつくります。次に蒸米を投入することを初添といいますが、添は第二の酒母ともいわれるように、枯しによって眠っていた酒母中の酵母の活性を呼び戻して増殖をはかる必要があります。そのために次に仕込む仲、留よりも仕込み直後の温度を高めに,通常は12〜13℃とします。したがって、仕込み後の温度がこの目標値に達するように、投入時の蒸米の温度を加減しなければなりません。 (2)踊り 初添の翌日は仕込みを1日休んで、酵母の増殖をはかります。これを踊りといいます。 (3)仲添(仲仕込) 踊りの翌日,初添の物料に水と麹を加えて水麹をつくり,さらに蒸米を投入します。仕込後の温度は、9〜10℃が標準です。 (4)留添(留仕込) 仲添の翌日、仲添の物料に水と麹を加えて水麹をつくり、さらに蒸米を投入します。仕込後の温度は、7〜8℃が標準です。 (5)留後の品温経過 留後の醪の品温は、酵母の発酵熱によって徐々に上りますが、留後10日日頃に予め予定した最高温度に達するように調節します。最高温度は、15℃前後が標準ですが、この温度に達した後は10日間位その温度を持続させます。一般に、最高温度が低いはど淡靂な清酒ができますが、一方では,粕が多く不経済な酒造りになりますから、これを防止するために醪期間を長くします。これを低温長期型の経過といいます。また、この逆の場合を高温短期型といいます。醪の管理は,温度管理につきるといってよいはど,品温の管理は大切です。 (6)留後の泡の変化 泡なし酵母を除いて、普通の酵母の場合は、糖化と発酵が進むにしたがって泡の状態がいろいろと変化します。これを醪の状貌といいます。 イ.筋泡:留仕込後2〜3日たつと、醪の表面に数本の泡の筋があらわれて、酵母が発酵を始めたことがわかります。これを筋泡といいます。ただし、留仕込の当日を1日目と数える習慣があることに注意してください。 ロ.水泡:留後3〜4日目になると、白くて軽い泡が全面に広がります。これを水泡といいます。 ハ.岩泡:水泡を過ぎると,泡は次第に高くなって岩のような形になってきます。これを岩泡といいます。 ニ.高泡:岩泡から、さらに泡が高くなった時期を高泡といいます。この泡の中には酵母が多量に入っていますから、泡を汲み出して発酵を調節することなども行われます。 ホ.落泡:高泡が次第に低くなる時期を落泡といいます。 へ.玉泡:泡が落ちると、シャボン玉のような泡が残りますが、これを玉泡といいます。 ト.地:玉泡が消えた時期を地といいます。地の状貌にはいろいろあります。醪の表面に何も浮んでないときには,妨主といいます。薄く物料が浮んでいるときは、チリメン泡あるいは薄皮などと呼び、厚く物料が浮んでいるとさは、厚蓋,飲蓋などといいます。このようにいろいろと変化する状貌は、酵母の性質によって異なりますが、糖化と発酵の進み具合を示す指標として、重要な意味をもっているのです。 (7)醪の濾液の成分変化 醪中では、蒸米の澱粉が麹の糖化酵素によって糖化されて糖ができる反応と、その糖が酵母にとりこまれてアルコールに変る反応が,並行しておこっています。この状態を正確に把握するために、醪の濾液を採って、ボーメ度、日本酒度、アルコール分、酸度、アミノ酸度などを測定して、科学的に醪を管理する必要があります。 (8)四段掛け 出来上った清酒に甘味をつけたいときには,醪の発酵が終った頃に 蒸米あるいは蒸米を糖化した液を加えます。これを四段掛けといいますが、四段掛けの方法としては、うるち米を蒸して投入するうるち米四段、もち米を蒸して投入するもち米四段,蒸米を麹または酵素剤で糖化して甘酒をつくり投入する甘酒四段、洒母を投入する酒母四段などがあります。 (9)アルコール添加 醪の発酵が終った時点で,味を調製するため、また火落ち(清酒が火落菌によつて酸敗すること)を防止するために、醸造用アルコールを添加します。増醸酒をつくる場合、このときにアルコールの代りに調味液を添加します。 |