江川酒  えかわさけ
古く伊豆国にあった名物の清酒をこのように呼んでいる。『和漢三才図会』には「伊豆 当国土産酒 柄川。」とある、また『渡辺幸庵対話』には、「江川酒の事、文字如此には無之侯、豆州(注、伊豆)之内大川と申すところ有之侯、則ち大之字を書きてヱと読み申し侯、鎮守は大川大明神也、此処にある水にて造り出し申す酒にて昔江川酒と名付け申す事、小川をヱツと読み申侯、江川には鱒、鮭無之物に侯故、ます酒なきと称美の詞にて、エ川酒と申侯・・・」つまり伊豆の大川(小川)という所の水で造った酒は美酒で、この辺鱒鮭無之を洒落てます酒なきとほめたのである。なお『信長記』には信長東征の時(天正10年3月)北条氏政からの献上品の中に「江川樽十樽」とあることから、当時は銘酒であったようである。

エキス
酒類の成分で水、アルコール、揮発酸以外の不揮発性成分。つまり酒類に熱を加えて蒸発させると、飴のような暗褐色の固形物が残る。これがエキスである。このエキスは糖分を主として他の炭水化物、蛋白質、灰分、不揮発酸等から成っている。なおエキス分とは酒類100血中に含まれるエキスをグラム数で表わしたものである。一般にエキスの多い程、酒の味は濃厚になる。簡単にいえば甘くなる。醸造酒は蒸留酒よりエキスが多く、特にエキス分の多いものに、我が国のみりんの約45、甘味の強いキュラソーやペパーミントのようなリキュール類は25〜47位の高エキス分、ポート・ワインが12〜20。日本酒やビールが4〜6程度のもの、蒸留酒は0.1〜0.3でと最もエキスが少ない。

エージング
調熱、熟成のこと。ウイスキーやブランデー等の蒸留酒、醸造酒の中でぶどう酒のような果実酒は、長い年月貯蔵することによって味は円味をおび、香はおだやかで快いものとなって、いわゆる風味が完成する。この現象がエージングで、つまり調熱(熟成)である。この調熱を科学的に完全に解明することは現在不可能であるが、要するに調熟とは酒の内部でおこるきわめて緩やかなそして微妙な物理的、化学的変化である。例えば蒸留酒やぶどう酒は樽に貯蔵するが、樽材を通して少量ながら空気が内部に入ってきて、緩やかな酸化が行なわれ、この結果、香や殊に微妙な変化がおこる。同時に内部からは水分が樽材を通して外へ出て行き、多少とも濃縮される。また樽材から参出してくるいくつかの成分が酒の成分と作用しあって、色や香や味に影響をあたえる。酒自体の中の主成分であるアルコールやその他微量の成分に、貯蔵によって微妙な変化がおこることも研究されている。このように調熱はさまざまの変化がまじり合って、それが非常にゆっくりと起きている所に香味の醇化が生れるのである。調熱には温度が密接な関係をもち、また調熟の期間もさまざまで、酒の種類によって違ってくるものである。高温短期、低温長期というが、余り温度が高いのは却って変化が過度になり香味を劣化する傾向がある。常温で最低三年ないし五年といい、いろいろであるが、この程度の年月は温度のいかんに拘わらず最低限必要であろう。国によっては法律で調熟の期間を定めている所もある。さて同じ調熱といっても果実酒以外の醸造酒の場合は少しく異なっている。一般にこの種の醸造酒は酵素という変化をおこしやすい成分を多種類含んでいることから、変化が速やかで調熱の速度は蒸留酒に比してすこぶる早い。ビールがウイスキーなどに比較して短期間に飲まれるのも、余り長く貯蔵すると調熟が過ぎて過熱(老熟)し、かえって風味を劣化させるからである。日本酒にしてもどちらかというと余り長い期間の調熟は好まれないが、現在最長3〜5年といわれている。ただ中国の紹興酒は醸造酒ではあるが調熟は長く、いわゆる老酒といわれるものは十数年の調蔵を行なっている。果実酒は醸造酒としては酵素を含むことの少ない酒で、従って蒸留酒と同じような貯蔵熟成が可能である。ただし蒸留酒の熟成は樽にある時だけで、びん詰してからの熟成はまずないのであるが、果実酒ははじめ樽の中で熟成し、後にびん話してからも調熟は進行する。これが蒸留酒と果実酒の調熟の相違である。

エステル
酒類広く醸造物の芳香の主体をなす物であって、化学的にはいろいろの酸類とアルコールとが反応してできた化合物の総称。

エチルアルコール
普通一般にアルコールとも呼ばれる化合物で、化学的にはC2H5OHで表わされる。純粋のものは無色透明の液体で、比重は水より軽く0.7936、沸点は78.3℃、水とよくまざり、燃えやすい。致酔作用をもつ。このものは糖類が酵母によって分解されてできるので(発酵)、これが多くの酒類をつくり出す。つまり酒類の主成分はエチルアルコールである。純品を造るのにはこの発酵法によってできたアルコールを蒸留によって濃縮精製するが、最近はエチレンから合成によってつくり出す方法も行なわれている。

エッグ・ノッグ
日本の卵酒に似た卵と砂糖、香辛料、ウイスキーやワイン、その他の酒をまぜた飲料。卵の黄味に白砂糖をまぜてよくかきまぜ、肉豆蒄、セリーマデイラ酒の少量を香料に、暖めたウイスキー、ブランデー、ラム等を三分の一までまぜてこれに加え、さらに卵の白味を泡立たせたものを上に浮べて飲む。同じようなものでエッグ・フリップは暖い蒸留酒。エールまたはワインを加えた同じような飲料。外国にも日本の卵酒と同じようなものがあるのも面白い。

エッグ・ブランデー
卵の黄味をすりつぶし、砂糖と香料とブランデーを加え、十分にかきまぜて乳濁させたクリーム状の酒。完全に乳化し、分離しないことが要件である。最も有名なのがオランダのアドヴォケイト・ボールである。ブランデーのかわりにキルシュワッサーを用いたり、安価なものは精製したアルコールを用いる。エッグ・ブランデーはカクテル用に用いられることが多い。

エーデル・フォイレ
貴腐。ドイツのモーゼル、ボルドーのソーテルヌの最高級の白ワインは、その原料の白ぶどうを天候のよい秋にはおそくまで摘まずに残しておく。そうすると、やがて貴腐菌というかびが果皮に増殖する。この結果、水分が失なわれ糖の多いぶどう果が得られ、このような粒を選んで搾汁をとり造ったぶどう酒がベーレンアウスレーゼ、さらに果粒を干ぶどうになるまで残しておいて造ったぶどう酒がトロッケン・ベーレンアウスレーゼである。味の濃醇な香りの深い高貴な白ワインがとれることから、この状態を高貴なる腐敗ということで貴腐という。

エール
イギリスにおけるビールの一つのタイプを示す語である。上面発酵の色の薄いビールであって、ベール・エール(ピター・エールともいう)はアルコール分高く、特に色の淡いホップの苦味の強いビール。マイルド・エールは前者より色の濃い、温和な味、特に麦芽の味の多いビール。イギリスではビールの代名詞にこのエールが使われている程普遍的なことばである。古い時代には穀物から造った酒をエールとよんでいたようで、他にビールという語もあり、この両者の違いは時代によって変っているようで、大変微妙である。10世紀になると、苦味の強いものをエール、苦味の少ないものをビールとよんでいた。当時の苦味はホップではなく、キヅタ、コショウ、シャクヤク、ういきょう、ニクヅクその他さまざまの薬草を醸造家は別々に使っていたらしい。12世紀イングランドにも麦酒醸造家が盛んになり、醸造家に隣接したビールを売る居酒屋がエール・ハウスとよばれた。一方僧院でもビールが醸造されていた。15世紀フランダースとイングランドと交易を行なうことになり、はじめてホップ入りのビールが輸入されてくる。そしてこの国では従来からのホップの入ってないものをエールと呼び、それ以外の麦酒をビールと呼ぶことになった。16世紀イングランド内のホップの栽培が盛んになり、ついにエールもまたホップを使用することに大きく転換をする。そして今日のエールが生れたのである。

延命酒 えんめしゅ
「毛吹草」諸国名酒には「紀伊 若山忍冬酒 延命酒」とあり、紀州に産した名物の薬酒。シソ科の植物であるヒキオコシ別名延命薬を焼酎やみりんと合わせて熟成させしぼったもの。